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「俺振られちゃってさー…」
電話越しの佐藤さんの声は少し酔いが混ざっていた。
周りからは雑音。
それ以上に、心臓がうるさい。
「今何処ですか?」
ポケットに鍵と財布だけつっこんで、携帯握ったまま家を飛び出した。
「ばかだなあ」
思ったことが口にでたのかと思ったら、言ったのは佐藤さんだった。
「あんたの方が、ばかですよ」
比較的近場にいることを確認して、自転車で行くより走ることを選んだ。
帰りのことを考えたらそのほうが良い。
「道路で寝てたらぶっ飛ばしますから」
「はは、怖いねぇ」
乾いた笑い声が心臓に痛い。
そんな声ださないでほしい。
「すぐ着きますから」
言って、通話が切れた。
ガードレールに寄りかかっている佐藤さんの姿が浮かんだ。
先月のあたまに見た光景だ。
…やっぱりばかはあんたのほうですよ。
角を曲がると、携帯を見つめたままの佐藤さんが、ガードレールに寄りかかっていた。
いつも飲む居酒屋の前で。
提灯の明かりに照らされた頬が赤い。
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