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雨はすっかり上がったようだった。
夏の名残を感じさせる強い日差しが枝葉の間から差し込む。
この「北山中老年介護病院」は市街から少し離れた山のふもとにあった。
建物は斜面に合わせいくつかの棟に別れている。
一番大きく一番古い本棟を出ると、看板のあった門までかなりの角度で坂が下っている。
その脇には木々が植えられている。
真ん中あたりの桜とおぼしき木に、大きな男がもたれていた。
隣りに座っていた男だ。
携帯電話を片手に何やら考えている。
ふと、ふたたび目が合った。
俺に気付き、何かを言いかける。
気にはなりつつもいつもの癖で視線を避け、早足で通り過ぎようとする。
「すいません!」
いきなり大声をかけられた。
さすがに立ち止まり、ふりかえる。
ほほを真っ赤に染めた真ん丸な顔がそこにあった。
「あの…面接の時、隣りに座ってた方っすよね?」
「…はい。」
「あの…あの、僕、受かりますかね?」
質問の意味をつかめず、何も言えない俺を見て彼はさらにほほを赤くした。
興奮からか大きなてのひらを開いて続ける。
赤い携帯電話がかしゃんと落ちた。
「あの、僕、採用されますかね!あなたから見て!」
「…いや、俺面接官やないし」
それが俺、生田隆と小木佑士が始めて交わした言葉だった。
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