話が違うと言いたかった

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 話が違うと言いたかった。 だか俺が言葉にはできずにいると、俺たちの目の前に座る四十過ぎと思われる男は、ずれたメガネを直しながら話を続けた。 「だからね、今この北山中病院には男子寮はないんですよ。 そもそも男性で入寮まで希望される方なんてそうそういなかったもんで…それもいきなり二人なんて、」 メガネの男…事務局長は、ね?と俺たち二人を見比べた。 俺と、今も隣りに肩をちぢこまらせて座っている佑士を。  あれから二日後。 前の職場の寮を出る直前に、俺の元に北山中老年介護病院からの採用通知が来た。 そしてそれは面接官でもない俺に合否を聞いてきた男…小木佑士にも届いたらしかった。 就職のための説明会の場、やはり隣りに彼の大きく丸い姿があった。  ふと思い返す。 帰り道で話かけられた後、俺は真っ赤な顔で答えを待つ佑士に、何故自分に聞くのかと尋ねるたのだった。 「いやその、自分で考えたらもう駄目やとしか思えないんすわ…」 と、佑士は小声で答えながらかがんで落ちた携帯電話を拾いあげた。 だから、何故俺に聞くのか… 「どう思います? やっぱ俺みたいなアホあかんすかね?」 「…元気があったのは、好評価やないですやろか。 まじめな感じはしましたよ」 そう俺が返すと、佑士はやおら立ち上がり頭を下げた。 「そっすかぁ。ありがとうございます。 いや、どないやったか報告せなあかんかったんすわ」 誰に、とは言わず佑士はそのまま背を向け走り出した。 「ほな、またお会いしましょー! よろしくっすー!」 ドタドタと転がるように坂道を下っていくその背中を、俺はもう多分会う事はないだろうなという気持ちと― それを惜しく思う奇妙な気持ちで見送っていた。
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