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夏に成り掛けの爽やかな風が吹く中、中高一貫の豊葦学園の校門の前に立つ人間がいた。
結城千早。
とある事情により、十七歳で本来高校二年生として転入するところを一年生として転入するという人間だ。
豊葦学園はそれなりに有名な名門校なため、敷地も広い。
なのに校則が厳しくないので、私服登校が認められている。
なので、千早は白いワイシャツに黒のジーンズといった出で立ちだった。
千早は眠たげな瞳で立派な校舎を見上げ、一度くぁっと欠伸をした。
一見肩にかかるまっすぐな茶髪に見えるが、所々寝癖なのか跳ねている。
「……職員室。」
行かなければならないのだろう、千早はそう呟くと髪をくしゃりと掻いてからのそのそと豊葦学園へと足を踏み入れた。
――――――――……
「――…えっと、このクラスに転入することになった結城千早だ。なんか入院生活を一年近くしていたらしく、その間勉強ができなかったため年齢は十七歳だが知識は高一。だから二年生じゃなく一年生として転入した。」
教室の教壇前に立って、千早の隣で一年六組担任の相模透(さがみとおる)は気だるそうに話していく。 その姿は若いが、どことなくやる気のなさを感じさせる。
そんな相模は時々千早に、間違ってないかと視線を送る。
それに千早は相変わらず眠た気な目で頷く。
生徒達は好奇の視線で千早を見つめている。
「……まぁ、俺からの紹介はこんなところだ。結城、なんか一言。」
相模の言葉により千早は少し前に出た。
「……これから、よろしく。」
それだけ言って、千早は口を閉ざした。
短過ぎる一言にぱらぱらと拍手が起こる。
「よし、それじゃあ結城の席はあそこだ。」
相模が指差す先は、窓側の、後ろから二番目の空席。そこを確認した千早はのそのそと席に向かう。
すると、相模が声を上げた。
「そうそう、結城が年上だからと言って差別とかしやがった俺が直々に制裁を下すからそのつもりでな。」
さらりと物騒なことを言っても、千早は特に反応もせず席についた。
千早が緩慢な動作で相模を見ると、変わらず気だるそうな顔だったが目は本気だった。
それから、今日の連絡事項を相模は話していった。
ずいぶんなげやりなところがあるが、情に熱い担任だというのが、千早の相模に対しての感想だった。
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