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朝の連絡事項が終わると、すぐに一時間目が始まる。
科目は数学。
教科書などは予め買ってあり用意していたので、千早は見せてもらうということはなかった。
予習もしてきたので、千早は難なく授業をこなしていた。
それでも、眠た気な表情は変わらなかったが。
その授業が終了すると、休み時間が十分間しかないというのに、生徒が何人か千早の席に集まった。
それなのに、千早は窓から差す温かい光にうつらうつらしていた。
「ねぇねぇ、結城君。」
女子生徒の声に、千早は幾分か瞼を上げた。
その女子生徒は私服が許されているということで、おしゃれだった。
派手過ぎないおしゃれ、と言ったところだ。
「結城君はなんか眠そうだけど、寝不足?」
問われて、千早はふるふると首を振った。
だが言ったそばで千早は小さく欠伸をした。
「…いつも、こんな感じ…。」
「そうなんだ。なんか、結城君って猫みたい。」
くすりと女子生徒が笑いながら言うと、他の生徒も確かにと同意の声を上げた。
よくわからないのか千早が首を傾けると、次々と声が上がった。
「だって、いつも眠そうだし。」
「なんかふわふわしてるよね。」
「気紛れそうにも見えるし。」
「髪の毛も、寝癖かもしれないけど猫っ毛みたい。」
「極め付けは、さっきうつらうつらしてた時一番猫っぽかった。」
「……そう?」
最後に千早が疑問系で言う、一斉に頷きが返ってきた。
すると、提案が上がった。
「じゃあ、結城君のあだ名は猫だね。千早だから、ちーねこ、とか。」
「いいねそれ、なんか可愛い。」
賛同の声が上がり、最終的には千早に視線が集まり、許可を求められた。
「……みんなが呼びたいなら、いいよ。」
千早は欠伸を噛み殺して答え、生徒達は嬉しそうに笑い合った。
「ちーねこ君だ。よろしくね、ちーねこ君。」
「……うん。…あのさ。」
目を擦りながら、あだ名がちーねこと決められた千早は尋ねた。
「……なんで、『君』なの?」
あれだけ盛り上がっていたのに、沈黙が降り注いだ。
「……え?」
「結城君…って…。」
「……女だよ、一応。」
その告白に、教室内に叫びが轟いた。
そして次には、謝罪の言葉がいくつも飛び交ったらしい。
そんな中でも、千早は呑気だった。
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