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『ちーねこ君、料理好きみたいだから丁度いいと思うよ。入れるかどうかは別にして、興味あるなら覗くだけでもしてきなよ。』
そう言われたのは昼休みで、今は放課後。
千早は静かな廊下をぽてぽてと歩いていた。
女子生徒が言った部活には興味があるが、入部するのは難しいらしいと聞いて千早は放課後色々な部活を見て回ることにしたのだ。
かれこれ十近くの部活を流れるように見てきた千早だが、どれも性に合わないと判断して勧誘を丁重に断っている。
この学園で、千早は少し有名人だった。
十七歳で高校一年生。そして猫のような雰囲気にちーねこ君というあだ名。
これらのことによって、千早のことを知る者は各部活一人はいた。
一番勧誘がすごかった吹奏楽部の部室を出てから、千早は宛もなく歩く。
途中見かける教室には生徒がちらほらいて、外からは運動部の掛け声が聞こえる。
ふらふらしている間に、千早は三階の特別棟を歩いていた。
特別棟は音楽室や理科室、実習授業をするための教室がある棟で、多くの屋内部活がこの棟で活動していた。
だから、特別棟を適当に歩いていれば何かしらの部活に行き当たるのだ。
そんなことを、千早が考えて行動しているかは定かではないが。
そんな時、声がした。
「ざんねーん。今日は静は来ないんだ。」
ふと気になって千早が足を止めて廊下の先を見ると、やたら背が高い男子生徒が数人の女子生徒をおちゃらけ口調で宥めていた。
それを聞いた女子生徒達は不満の声を上げた。
「えー。丙(ひのえ)先輩またいないんですか?」
「山本先輩、丙先輩の居場所わからないんですか?」
「俺が静の行動パターンわかるわけないじゃん。」
にこにこ笑顔で言って、山本先輩と呼ばれた男子生徒は一年生と思われる女子生徒達の背中を押した。
「探すなら、違う場所探してね。」
その言葉に、やはり不満そうに一人が背を押されながら尋ねた。
「山本先輩、料理部に入るには何が基準なんですか?先輩達みんな料理上手だけど、私も一応自信ありますよ?」
困ったように、先輩らしき男子生徒は笑った。
「さぁ?決めるのは俺じゃなくて神崎だから。ほらほら行った行った。」
それで諦めがついたのか、女子生徒達は千早の方に向かって歩いてきた。
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