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やがて数秒が経ち、2人は同じタイミングで立ち止まった。
そして同じタイミングで2人は振り返る。
洋介はゆっくりと智子に向かって歩き出し、智子は少しずつながらも近づいていった。
近づいた2人の間の果てに、洋介は隙間のないほど智子を抱きしめる。
抱きしめられた智子は、それを拒むことなく、洋介の背中に手を回した。
「私、病気になって不幸なことばっかりだと思ってた」
「…うん」
「でも、良いこともあった」
「…何?」
互いの体は一度離れ、じっと見つめ合った。
「洋介に、会えた」
それを合図に洋介は唇をそっと智子に近づける。
2人のキスはいつまでも大きな街灯に照らされていたのだった。
ねぇ、洋介。
私はその時、自分にまだどのくらいの時間が残されてるかなんて、考えていなかった。
でもね、あの時の私の時間は、きっと病気になる前よりも輝いていたんだ。
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