35 新しい命

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35 新しい命

引っ越ししてから、息子はしばらく音沙汰が無かった。 いつか耳にした、田舎の先輩が福生かどこかで寿司屋をやって居る… と言ってたそこに転がり込んでたのかも知れない。 息子が目の前に居なくても、存在は大きく影響している。 娘たちには、大きな音や.モノの壊れる音.男の人の怒鳴る声に恐怖が、 フラッシュバックとなって蘇って来る。 死ぬまで、いや死んでも消し去る事は出来ないだろう。 Tは‥父親として頑張ってくれて居る。 真面目で寡黙な人だけど、冗談も通じる。 娘たちには、兄とはまた,別の意味で男の人の恐さ…を教えてくれる存在だったようだ。 そりゃあ、なさぬ仲なんだから…パーフェクトにうまく行くかと言ったら、嘘になる。 この頃は“おじさん”と呼んでいたけど「お父さん」と呼ぶようには、言わなかった。 無理して良いことなんか無いから… 給料日には4人でご飯を食べに行ったり、たまには遊園地やプールにも行った。 なさぬ仲なりに、和気あいあいとやって居た。 うまくいってる方だと思う。 引っ越して、少しの間は平和だった。 本当に少しの間だ。 息子から電話があって、行く所が無いから行っても良いか? と言う内容…。 Tは仕方がないと許可した。 「もう、暴れないから」と、とりあえずは約束する。 息子に言わせれば… 記録と約束(ルール)は破るためにある…らしい。 私は臨月に入って居た。 息子は常に彼女が居て、この時も1つ上の18才の娘と付き合って居て… 初めは土方で働きながら、外で会って居たけど、だんだん家に来るようになった。 必ず喧嘩する。 夜中に急に大声を出して、どったんばったん始まる。 おちおち眠っても居られない。 初めは、私が部屋に行ってドアの外から 「夜中なんだから…静かにしなさい‼」と叱責してたけど… 「うるせえ‼ 余計な事言ってんじゃねぇ‼ あっちへ行ってろ‼」とわめく。 大声 モノが壊れる音 わめき声 泣き声 しばらく続く。 私が起き上がって行こうとしたら、Tが肩に手を置いて制止する。 「俺が行くから…」そして、ゆっくり立ち上がる。 「○○…どうした?何かあったのか?」 静かに、優しい口調で聞く。 「何でもないよ」 息子も普通に答える。 「なら良いけど、遅いから… もう、寝なさい」 優しく、優しく言う。 「うん…寝るよ」 息子も静かに答える。 その間・2.3分だけど、心臓が口から飛び出しそうになってる。
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