9 別れ

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9 別れ

本当に可愛がった。 おしめは換える、雨で仕事が休みの日は 「抱き癖がつくから!」と言うほど抱っこしてたり、出かける度に、まだ早いと言うのに、おもちゃを買って来る。 そう言えば… あいつ、生まれた日にガラガラを買って来たっけ…… 男の子だから・・・ 私はおてがらだよ。 食い初めか何かで‥ 近所の人たちを招いて祝宴をした日。 Sは嬉しくて、飲みすぎた。 宴もお開きになった夜半“風呂に入れる”と言い出した。 したたかに酔っ払い、足元もおぼつかないくせに‥ しかも、まだ一度も風呂になんか入れたことも無いくせに‥! 私が強く拒否したら、キレた。 息子を抱っこしてる私の腰、背中、足を蹴る。 「俺の子供を、俺がどうしようと 俺の勝手だ‼」 息子の泣き声と私の悲鳴に、母が駆けつけて止める。 父も止める。 そして… 祖父が老いた体で杖をつきながら、駆けつけて 「K子を殺す気か⁉ てめえのような者は出て失され‼」 体中をワナワナ怒りで震るわせて、言い放つ。 母は知っていた… 私が‥たまに殴られてる事とか、Sが酒乱気味だって事を……。 私も、本当は知っていた…。 Sがどんなに孤独だったかって事を…… たぶん、生まれた息子だけが、Sの心の寄りどころだったかも知れないね。 「養子だと思ってバカにして!」 「年下だと思ってバカにして!」 「お前は俺の事を見てない!」 けんかする度にSが言ってたそれは…… 当たってたよ。 私はあんたを、愛してなんか居なかった。
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