10 上京

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10 上京

息子は… ものすごく、手の掛かる赤ん坊だった。 寝グズ、起きグズ、夜泣き、抱きぐせ、 神経質等々… とにかく、布団で寝ない子で、おぶってるか、抱いてるかしないと寝ない。 私は母と交代で、ずっとおんぶしっぱなし、寝たからと充分過ぎるほど慎重に、そ~っと布団に寝かそうとすると、下ろすと同時に、火がついたように泣き出す。 まだSが居た頃は…起こしたらいけないと思い、ずっと外でおんぶしてたり 睡魔に負けて、おぶったまま、壁にもたれて眠ったり… 熱をだしたり、吐いたり、お腹をこわしたり、湿疹もひどかったり‥ 医者にもよく通った。 1人で5人分くらい、手のかかる赤ん坊だったのよ。 口が早い子で、歩くよりしゃべる方が先だったっけ。 可愛かった。 あの頃… “子連れ狼”が流行っていて… 好きだったから、大五郎のような子になれ❗ と思ってた。 今考えたら… あり得ないし、そうなったら逆に、 怖い事だと思うよね。 ぬるま湯に浸かってる様な代わり映えのしない、日々… 息子と私は親掛かりで、しばらくは平穏に暮らしていたよ。 でも,息子が2才半ごろ、田舎暮らしに飽き飽きした私は、仕事を探して、上京する事にした。 実際このままじゃ居られない、って言うのも事実だったから…… その時、母に息子を預けて単身上京したけど…。 あの頃は、息子を保育園に預けて働く、なんて頭はさらさらなかった。 考えつかなかった、 あの頃、田舎には保育園さえ無かったから… あの時… 母に息子を頼んで、上京と言っても、車でたった1時間半の距離だから… 近かったと思う。 だけど,とても遠い心の隔たりを感じる,距離でもあったんだ 一足先に、私だけ家を出て、生活基盤を固めたら、 なるべく早く息子を引き取るから… そう約束した。 あの時… 泣きわめいて、追いかけて来た息子を、 後ろ髪引かれながら、置いて来た事が 将来の息子の人生を大きく変えてしまうなんて、 全く想像も出来なかった。 こんなにも、息子の人生を狂わせるなんて・・・ 子供の幸せを願わない親なんて、居る訳がない‼ 私も気持ちはそうだった。 だけど,自由になれた喜びの方が‥ 正直優先してたのは認める。 24才 自分が子供だった。
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