こぶしの花

３ 結婚

福生から奥多摩街道を、２時間。
Ｓ型クランク練習場のような山道、しかも左側は断崖絶壁みたいな場所もある。
奥多摩湖には車が何台沈んだか、知れたもんじゃない。

今も、沈んだままの死体があるかも知れない。

この頃だって‥走り屋・バイク乗り達には、車を飛ばしてスリルを味わう、代表的な道路の１つだったんじゃないかな？

彼Ｓは運転免許を持って居なかったから、運転は私がしたけど…
しょっちゅう無免許で、運転してたよ。

妙な才能があって、警察が居ると分かるらしい。
うまくかいくぐる。
不思議だけど、捕まった事は無い。

家出して半年くらいだったかな？
何の前ぶれもなく、男を連れて突然帰省した、１人娘を厳格な父は苦虫を噛み潰したような顔で迎えた。
「養子に来たいって言う人を、連れて来たから…」
「会う必要はない！」
言い捨てて畑に出て行ってしまった。

生家は代々農家で、私は本家の跡取り娘だったから、本当なら周りからウルサいことを言われるんだと思うね。

１人娘だからさ…
親が甘やかすから、どうしようもない
ワガママだと言われて来たなぁ…。

「俺の顔に泥を塗りやがって‼」と
家出の事を怒ってる筈だわ。

「会う必要無いってさ、諦めなよ」
車で待ってたＳに伝えた。

「俺、頼むよ！」

言うが早いか、どこに居るのかも分かりもしないくせに、畑の方に走って行った。
ちゃんとスーツを着てネクタイを絞めて来ている。