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~意味~
おばあさんは公園を出て、ゆっくり歩くと今度は何かの施設に着いた。
施設内を進むおばあさんの後を黙ってついて行った。
そこはホスピスだった。
死を待つ人が余生を有意義に過ごすための場所。
おばあさんは誰かの部屋にフラッと入った。
女性に話し掛けると、真也を招き入れた。
そこにはチューブにつながれ、話すこともままならないほど弱り切った女の子がいた。
真也は女の子のそばに立った。
女の子はニコッと笑うと折り鶴を真也に手渡した。
自分が良くなるように折ったであろう折り鶴だ。
真也は折り鶴を受け取り、女の子の手を握った。
涙がとまらない。
死を前にしてもなお、笑顔で自分を励ましてくれているのだ。
頑張って生きよう。
私と一緒に生きよう..と。
他の部屋も同じだった。
男女年齢問わず、死を目前にしても、みな暗い顔をしている真也をそれぞれ励ました。
たわいない世間話をしたり、黙って手を握っていたり、詩を読んだり、歌を歌ったりしてくれた。
真也は涙が止まらなかった。
優しさが、温もりが溢れている。
真也とおばあさんはホスピスを出て、あの屋上へと戻った。
『どうだい?まだまだ人は捨てたもんじゃないだろ。投げ出すには早過ぎる。金や物があるから幸せじゃない。時間があるから幸せじゃない。生きている事が幸せなんだよ。きっと気づける。あんたは気づいたんだ。そしてあんたは生きて繋げるんだ。もっと沢山の人に、命の美しさを、支え合い、励まし合いの大切さを。命の意味を。幸せの意味を。まだ人の心は変えられる。希望が溢れているから命は大切なんだ。素晴らしいんだ。あんたみたいに意味を知ってる人が少しずつ変えていくんだ。共に生きながらね。』
その時、涙ぐみ、頷きながら真也が見た街のネオンは、死のうとしていた時とは比べものにならないほど美しく見えた。
今ではあのおばあさんが誰だったのか分からない。
もしかしたら天使とか神様とかだったのかもしれない。
真也は今も生きている。
生きて、変えようとし続けている。
手を差し延べ続けている。
美しい命で共に生きよう...と。
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