~逃避~

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~逃避~

殺人 虐待 麻薬 飢餓 紛争や戦争は起こり続ける 今も血と涙は流れ 止まることはない あと一歩踏み出せば、僕はこの廃れ、薄汚れた世界から抜け出せる。 自分がどこへ行くかは知らないが、そんなのどうでもいい。 無になろうが、天国に行こうが地獄に行こうが関係ない。 まぁ・・天国には行けないだろうけど。 ビルの屋上、生と死の狭間に立った真也は、ふとそんな事を考えていた。 生きるか死ぬかなんて事は考えていない。 どんなタイミングで落ちようか。 ただそれだけを考えていた。 不思議な事にこんな時に限って、屋上から見る街のネオンは実に美しかった。 しかし、美しいのは見た目だけに過ぎない。 中身は薄汚れた真っ黒な世の中なのだ。 真也はふうと一息ついて、ついに最後の一歩を踏み出した。 しかし、踏みとどまった。 それは死への恐れでも、この世への未練でもなかった。 視線。 何かじーっと見られている様な、そんな視線を感じた。 不思議とそれは止める様なものではなく、見守る、そんな気のする視線だった。 真也はふと視線の方へ振り向いた。 いつから居たのだろう。 振り向いた先にはゆったりと前後にゆれるロッキングチェアに座ったおばあさんが丸いレンズ越しにこっちを見つめていた。 優しい眼差しというのはこういうものなんだと気づかされた。
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