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悠利に無言の鋭い視線が突き刺さる。それは、まるで鋭利な刃物同然の美しさ、おこがましさを持っていて。
中田の威圧的な瞳には、有無を言わさず従わせてしまうような、そんな迫力があった。
「先輩が殴ってきたから、こんな事になったんでしょ?ちょっとは後輩を気遣ってくださいよー。」
悠利も中田のこの目には敵わないらしい。冗談混じりの文句を吐きつつ、中田の隣に慌てて立つ。また、紫色の瞳が潤む。
今度は、痛みだけではなさそうだ。
悠利の指先が、一瞬、空をきる。刹那、男にしては磨き込まれた桃色の爪が掌に突き刺ささった。
時間にしたら、1/10秒、いや1/100秒もなかっただろう。中田の切れ長の目が細まる。どうやら、後輩の可愛い仕種を見逃す気はないらしい。
「ほら、急患が来たらどうする。昼休みだから、ふらふら歩き回っていいなんざぬかしたら容赦しねぇからな。さぁ、さっさと帰るぞ。」
悠利の拳が開かれる。
「はーいはい。ヤブ医者集団唯一の天才ドクターが抜けたら困りますもんねー。」
潤んだ可愛い瞳はどこへやら。あっという間に、皮肉っぽさが溢れる瞳に変わっている。
可愛くない、やつ。
心の中で毒づいた後、桜色の道をゆっくり踏み締めていく。
春の光が、優しく二人を包んでいた。
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