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「…ピアノ、お上手ですね。けど、」
放課後、音楽室から聞こえる柔らかくて優しい音。
入学してから毎日聞いていた。
でも今日は柔らかくて優しいいつもの音とは違っていて
「…あんた誰。」
「あ、1-Bの山下雫です。」
うつむいた顔をあげることなく
私に問い掛ける。
顔が見てみたい
長い前髪が邪魔をする
うつむいた顔を上げてほしい
「…で?あんた何?」
「あ…いつも教室でピアノ聞いてたんですけど…なんだかいつもと音が違う気がして。」
ぴくっと肩が動く
長い前髪が揺れる
けど顔は上がらない
「…あの。」
「寄るなっ!!」
少しずつ近づいたら怒鳴られた。
「俺はお前なんか知らない。近付くなよ。誰とも関わりたくねぇんだ。」
少しあがった顔に、
私の見間違いでなければ…
「…泣いて…る?」
「…っ!!」
顔を上げて勢いよく私をにらみつける彼は
確かに泣いていた。
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