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「…旦那」
「……っ!?」
声が、聞こえた。
オレの頭の上で、いつもの声が。
アイツの声が。
上を見上げればやはりアイツが立っていた。
…デイダラが、来てくれた。
「デイ…ダラ……」
何に安堵したのだろうか
アイツの顔を見るだけで、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
だがオレを待たせた事に変わりはない
叱ってやらねば。
隠し持っていた毒刀を引き抜けば相手に斬りかかる。
「っ!テメェ…いつまでオレを待たせる気だ!死にさらせ!!」
だがその刀に殺意は込められなかった。
そのせいだろうか、アイツはオレの腕を掴んでその勢いを殺した。
それと同時に、抱きしめられた。
「―ッ!」
「旦那…ごめんな」
「フザけ…んな…っ!オレは待つのが嫌いだって知ってる癖によ…!」
寂しかった
怖かった
来てくれて嬉しい
そんな甘ったれた言葉は言えない。
ただオレの目には涙が溜まっていて。
バレたら恥ずかしいな…。
そうするとアイツはギュッと、オレを更に抱締めた。
「ゴメンな…実験、してたんだ」
「実験…?」
「あぁ、アンタを待たせたらどうなるか…ってな」
「…」
「……」
「…酷ェ…」
「…うん、ゴメン…」
本当に酷い。
あんなオレを見て笑っていたのだろうか。
何が楽しかったのか。
こいつは何を思ったのだろうか…。
「もう、こんな事はもう二度としない…だから」
「頼むからもう…待たせないでくれ…」
「…うん」
持っていた刀が力無く落ちる。
もう二度と離されたくは無くて
装束をギュッと握ってオレは、
相手の胸の中で
声を殺して泣いていた。
オレは知らない間に
こいつに依存してしまっているのだと実感した。
情けない話だ、笑いたければ笑うがいい。
そしてもう二度と、このオレを―――
実験サソリSide -終-
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