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そしたらまた転校か。それはそれで忙しいな、なんて事も考える。
しかし、今はそんな事よりも、もっと大事な事がある。
寝汗で背中が冷たい。
さっさと着替えなくては。
「寝苦しいと思ったぜ、ったく……」
刹那は勢いよくベッドから飛び降りた。
「あら、せっちゃん。お出かけ?」
刹那が身支度を整えて玄関に向かうと、台所から母親らしい声がした。
「あー、どーせ暇だしナー……」
刹那は特に気にするふうもなく、やる気なさげに答える。
一見、普通の親子の会話のようにも見えるが、彼女は刹那の母親ではない。
物心着いた時にはすでに母親は居なかったし、幼い時に連合議会軍の兵士に目の前で父親を殺されていて天涯孤独の身だった。
その刹那を引き取ったのが坂城夫妻である。
坂城夫妻には刹那と同い年のユイという一人娘がいる。
ユイは割と明るい奴で、勉強も刹那よりできるし、運動も人並みにこなせる器量良しだから、目つきが悪く、無愛想な刹那と違ってクラスでも人気者だ。
つまり、この声の主は坂城ユイの母親で、刹那にとっても母親代わりの人物だ。
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