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第一話 神崎刹那
視界一面が赤かった。
真っ赤に燃えさかる市街地。
すでに逃げまどう人影も無く、あちこちに焼けた死体が転がっている。
身体の一部しかない者や、逆に一部が欠損したもの。
炭化した枯れ木のように倒れている。
そんな中、白衣を着た男性が幼い少年の手を引いて何者からか逃げていた。
親子だろうか?
息を切らせ、人の形をした枯れ木を跨ぎ、瓦礫につまづきながら。
しかし、路地に飛び込んだ途端、彼は呻いた。
袋小路だ。
すぐさま振り返るが、駆け出そうとした途端に足を止めた。
目の前にはライフルを構える数人の兵士。
その銃口は全てこちらに向けられている。
「ここまでだなカミサキ」
中央に立つ兵士が勝ち誇ったように言って右手を挙げた。
とっさに男性は我が子を庇う。
兵士の右手が振り下ろされると、他の兵士達はそれぞれに発砲して、少年の視界は真っ赤になった。
それは父親の返り血によるものなのか、それとも燃え盛る周囲の景色のせいだったのかは分からない。
ただ、父親を失った悲しみと得体の知れない恐怖とで叫ぶだけだ。
「うわあああああああぁっッ!!!」
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