無い町

3/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 川の流れのように少しだけ不揃いな煉瓦が模様を描く道路を、コツコツと足を鳴らしながら私は歩く。  ブロック造りの階段を上り下りしながら、町の作りを確かめるようにして私は町をぐるりと廻った。素敵な何かに出会えるような、漠然とした期待と小さな不安を胸に秘しながら。  そんな折り、ふと目についたガラス張りの店舗を覗けば、木目が際立つ静かな雰囲気のカウンターに、白いウサギの人形が腰掛けていた。  興味を引かれて入り口を確認すると、どうやらここはカフェらしい。見たところ、お店としては小さいほうだったけれど、おいしいコーヒーを出してくれそうだと、そう感じさせる場所だった。  よく確認してみると、どうやらお店は開いているらしい。私は期待に胸を膨らませながら扉を開けた。  お店の中は思ったよりもずっと奥行があり、20メートルくらいむこうには階段が見えた。  カウンターを確認すると、不思議なことに先程の人形が見当たらない。  おや? と思って店員を探したけれど、影も形もありはしない。ただただコジャレたカフェ店舗がそこにあるだけだった。  私は、ここに来てようやく違和感を覚えた。正直に言えば違和感を一切感じなかったわけではない。ただ、気付いてしまえば何かが起こりそうに感じて、半ば意図的に無視し続けていたのだから。  そして私は思い知る。  この町の恐ろしさを。  今まで誰にも会わなかったことを。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!