無い町

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<ありえない!>と私の理性が悲鳴を上げる。 『誰も居ない』そんな事実に後押しされて、私はカフェを飛び出した。  慌てて周囲を見渡したけれど、町中には私以外の人の姿が存在しない。それどころか物音の一つも聞こえとこないし、誰かが居るような気配だって存在しなかった。  いよいよ怖くなった私は、その気持ちの命じるままに駆け出した。  探せば誰かが居るかもしれない。そんな風に自分に言い聞かせながら、私は必死に駆け回った。  寂れたお店に飛び込んで、階段を駆け巡り、屋根の上からテーブルの下まで、目についたあらゆる場所を捜し回った。  だけど誰かに出会うことはなく、それどころか生きものの姿をすらも確認できずに途方に暮れていた。    そんな時、コツコツと誰かの足音が聞こえた。  驚いて音がした方へと振り向くと、夕暮れ時のように長くのびた誰かの影が目について、だけど私は逃げ出した。  なぜ逃げ出したのか、自分でもよく解らない。  ただ、あの影を見て皮膚があわ立つような強い怖気を覚えて、何かを考える前に足が動いていて、そうして逃げ込んだ先はあのコジャレたカフェだった。  なぜここなのかは解らないけれど、何だか少しだけ安心できて……私は姿勢を低くして、テーブルの影に隠れる様にして呼吸と思考を整えることにした。  そいしていると、ここでようやく自分の影が見えないことに気が付いた。そして周囲を見渡して、テーブルや調度品にも影がまったく存在しないことに気が付くのと同時に、あの皮膚があわ立つような感覚が徐々に強まるのを感じた。  逃げなければ! そんな思いの命ずるままに、私は姿勢を低くしたまま店の奥の階段に向かった。
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