無い町

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 何度か回り道をさせられ、何度も階段を上り下りしながらも私はようやく、広場にたどり着いていた。  もはや、町は半ばまで崩壊し、広場も少し前まで煉瓦だったものに埋もれ始めていたけれど、なんとか間に合った。  そう思ったときだった。  黒い影が……  砂を踏みしめる足音が……  そして、カラカラと廻る車輪の音と供に、ついに私に追い付いた。  見れば、少し遠くに黒い乳母車のようなものを押す黒い女性の影が見えて、私は必死に最初の場所をめざした。  何故そこを目指すのかは、自分でもよく解らない。ただ、そうしなければならないという気持ちと、この町から逃げ出したがる理性とが供にそこを目指せと命じてきた。 もはや、まともに立つ事すらも出来ずに、這うようにして体を動かす。  遅々として進まない私とは裏腹に、影の足音は着実に近づいてきていた。  そうして私は、何とか最初の場所にたどり着くことが出来た。                            だから、油断していたのだろう。まだ、町のなかだというのに……しかし、後悔してももう遅い。  私は安心感から視線を上げて、再び夕暮れ時のように長く伸びた影を見てしまった。 気が付いてももう遅い。私の体は、まるで見えない何かに縛られたみたいに動かなかった。  私に出来たのは、ただ必死に目を閉じることだけだった。  そして、あの黒いナニカが私に触れようとした瞬間、私は渾身の力をこめて体を起こした。    慌てて周囲を見渡すと、いつもの自分の部屋のなかの、自分のベットの上だった。 「……夢、かぁ……」  思わず力が抜けて、馬鹿馬鹿しくなって笑ってしまった。何のことはない、ただの怖い夢だったというだけなのだから。      そう考えて頭を掻くと、ジャリっとした感覚がして、不意に子供の声がした。「よかっね、にげきれて」  慌てて周囲を見渡したけれど、部屋にいるのは私だけ、ここは二階で隣人はなく、時計は4事を指していた。  ただ、頭を掻いた指先に、黄色い砂が着いていた……
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