金縛り

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 学生時代の話です。私が借りた部屋の天井には、人のシルエットに似た染みがありました。ちょうど寝る時に正面から向き合うような位置です。  建物は少々古く、今までに何人もの学生が部屋を借りている。そんな安アパートでした。  その日も、天井の染みを半ば無視したまま、私は布団をかぶって眠りにつきました。大学のレポートを仕上げて、やっとの思いで寝入れたという有様でしたが。  深夜、私はふと目を覚ましました。  普段なら寝呆けた頭が動きだすまで少しかかるというのに、この時は不思議とすっきり目が覚めたのです。  当然ながら部屋は暗く、何時だろうかと時計を確認しようとしたときに違和感を覚えたのです。  それは、体が動かないという事でした。 (疲れていたからなぁ……) 金縛りは、主に疲労やストレスによって起こる体のちょっとした不具合のようなものがほとんどである。そんな話を知っていた私は、気を落ち着けて体の確認を始めました。  焦らず冷静に体を確認することは、金縛りを解くきっかけに出来るからです。  まず右手は……まるで力が入らない。力を入れようとしてみても、人形か何かにでもなったかのように動かせない。しかしそこに腕があるという感覚だけはありました。左手も同じです。 (面倒だな……)  そんな風に考えていると、何かがポトリと胸の辺りに落ちてきました。  体は動かせないものの、私はひどく驚きました。  だって、ポトリと落ちてきた何かが胸の上で暴れだしたのです。  動きなどから細長くて小さな、イタチのような生き物ののようでしたが、そんなことは些細な問題です。  何故ならば、その感触が私の胸の上に感じられたから……つまり、布団をすりぬけていきなり内側に表れたからです。  私は非常に驚いて、なんとか体の自由を取り戻すとすぐに胸元を確認しましたが、何かがいた形跡はありませんでした。
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