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「ハァハァ……」
僕らは走った。
息をしながら、夢中で足を前へ前へと進める。僕の脇を走る妹の瑠璃(るり)の手を離さないように、ギュッと手を握り返した。
すでに太陽は傾き、黒みがかったオレンジの光で、僕らの影は作られる。
その影が時折重なって、まるでひとりの人間のように見えた。
「ハァハァ……。お兄ちゃん。少し、お休みしたい」
瑠璃は走るのを止め、その場にへたり込む。
「瑠璃! 早くしないと、あの魔女に意地悪されちゃうんだぞ? 兄ちゃんと離れてもいいのか!?」
焦る僕とは反対に、瑠璃は涙を浮かべ、口をへの字に曲げる。
「いやぁ! お兄ちゃんと一緒がいい! でも、足が……痛いよぉ」
見ると真新しかった白に、ピンクの縁どりのスニーカーが、泥だらけになっていた。
当たり前だ。
此処まで、電車に乗り、散々歩いて走ってを繰り返し、今は深そうな森の入口にいるのだから。
ここに来るために、足がつってしまうほど歩いたり走ったりを繰り返した。こんだけ家から遠い場所までくれば、誰だって足が痛くなってしまう。
辺りを見回しても、僕ら意外誰もいない。
静寂の中、鈴虫の鳴き声だけが響き渡っていた。
「瑠璃。もう少しだけ頑張ろう? 兄ちゃんが支えてやるから」
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