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瑠璃は目だけをキョロキョロと動かし、僕と魔女を見る。
「お兄ちゃん……」
囁くように呟く。
幼い瑠璃にも、やっと状況が掴めたようだ。
今は身動きがとれない。
「お嬢ちゃん。いい子だねぇ。それでいい」
魔女は満足気にゆっくりと頷くと、僕の腕を掴む。
「もういいだろ。行くよ」
冷たくいい放ち、檻に背を向ける。
「いや……行かないで?」
瑠璃は悲しげに訴えるが、僕はぐいっと腕を引かれ、抵抗出来ない。
仕方なく顔だけ振り向き、微笑んでみせる。
「大丈夫だ! またすぐ会えるから、心配はいらないよ」
階段を登って行き、最後に見えた瑠璃の表情は、いくらか明るくなっていた。
僕の言葉を信用したに違い。
地上への扉が目の前に現れ、魔女が扉に手をかける。
きっと今の顔を見たら、驚く事だろう。
だって……最高の演技をし、心から満足していたのだから。
口を大きく開き、声を出さずに腹のそこから、僕は笑った。
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