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終業式の終わった午後。
葱音はご機嫌で荷物を纏めていた。
「あら、葱音さんはどちらへいかれるの?」
気取った同級生の小馬鹿にした笑みも、全く気にはならない。
葱音が孤児であり、中学まで世話になっていた施設が無いことを言っているのだろうが、知ったことではない。葱音は口端を上げるだけの-槐がたまに浮かべるような-冷たい笑みで一瞥した。
「私の夏休みの計画よりも、夏休み明けのテストの心配でもしてたら?また、私にトップを譲るつもりなら、話は別だけど」
ひくり、と同級生の頬が引き吊る。入学試験から今まで、一度として成績を落としたことのない葱音の発言だからこそだろうが。
「まあ、貴方は特別補助金を貰わなければならないから、お勉強をたっぷりしなければならないですものね。夏期休暇もお勉強で終わりでしょう?お可哀想に」
「何で夏休みまで勉強するの?馬鹿みたい。親の稼いだ金と、権力がないとなんにもできないお人形さんが、一人前に人間面しないで」
こういった言い回しはまさしく槐譲りだ。最近は、柘榴のおかげで、ますます口が悪くなったけど。
完全に顔を引き吊らせた同級生をよそに、纏めた荷物をもって高級車にごった返す寮の玄関先へ向かう。送り迎えも大変だ、とのんきに思って居たところへ一台のバイクが入り込み、葱音の前で停まった。
「何だ、この行列は」
ヘルメットを脱いで開口一番の言葉に、葱音は笑う。
「お迎え。大変だよね」
「迎えに越させるお前が言うな」
軽く小突かれて、葱音は頬を膨らませた。
がっしりと鍛えられた長身に、太陽の光を反射させる灰銀の髪。精悍だが、整えられた綺麗さではない、どこか野性味を感じさせる面立ちと、呆れを浮かばせるそれでも優しい赤の瞳。
「私は良いの!親が雇った運転手じゃないもん」
告げると間の抜けた表情を見せたあと、大きな掌で頭を撫でられた。
普通の人間ならば萎縮するようなこの光景を目の当たりにしても、何ら変わらない態度の彼に嬉しくなる。
「海行こう!海」
「お前の保護者に寄り道するなって言われてるんだけど」
荷物を積みながら言えば帰ってくるのは冷たい返事。
「良いから、行こう。で、一緒に怒られれば良いでしょ」
「俺も怒られること前提かよ。この我が儘娘は」
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