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そうだ。
ボスは何でも嘘を見抜く。
誰よりも鋭い洞察力を持っている。
ファミリー内に裏切り者がいるのならボスが見つけてくれるはず。
私が今心配すべきなのはファミリー内部の内通者探しじゃない。
さっさと身体を治して自分の身を守ること。
そして万全の状態になってから、ファミリーの副ボスとしての務めを果たす。
ファミリーを守る。
複数いるであろう犯人をあぶりだして、制裁を。
その時、暗い室内にカラリと音を立てて光が入った。
襖が開いたのだ。
目だけで入ってきた人間を確認してみるとそこにいたのは。
「……ドクター?」
パタンと襖が閉められて再び暗闇に包まれる。
ドクターは何の返答もせず、ゆらりゆらりとこちらに近付いてきた。
どうしたのだろう。
いつものあの自信満々な態度が見えない。
なんというか……とても、弱っているように見えるのは、気のせいなのだろうか。
「ドクター、どうしたの?何かあった?」
人を見下すようなこの人特有の視線がない。
誰かに心配されると照れ隠しに憎まれ口を叩くのに、それもない。
ドクターの様子がおかしい。
ずっと、黙っているなんて。
この人は無駄を嫌う傾向がある。
効率化を最優先に考える人。
言いづらいことすら歯に衣着せぬ物言いでぶっ込んでくる人だ(そのせいでファミリー内では嫌われているけれど)。
「ドクター?」
「何故であるか」
「え?」
「何故、忘れようとせぬのだ」
へたりと崩れるように座りこむドクター。
その姿は、十年近く付き合ってきた中でも見たことがないほどに弱々しく、心配より困惑の方が先に顔に出てきてしまうほど。
「私なら忘れさせてあげられる。忘れてしまえば、楽になれるであろうに」
「…………」
ドクターが言っていた。
私がマルクを思い出した後、マルクのことを忘れさせたのは自分なのだと。
そして、辛いのなら、また忘れさせてやる、と。
その言葉に私は静かに首を横に振ったのだ。
ドクターの気持ちは嬉しかった。
でも。
、
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