まもってみせる

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「……うん、楽だった。だって苦しいことなんか一つも覚えてなかったんだから。だからこそ笑うことができたし、たくさんの人と関われるようになった。 それに、あのときの私はあのままいってたら恐らく精神不安定で、敵に殺されていただろうから。だから、一瞬でも忘れさせてくれらドクターに感謝してる。ありがとう、ドクター」 感謝の言葉に握りしめる手に少し力を入れるドクターに、でもね、と続ける。 「逃げてるだけじゃ何も始まらないし、何も終わらないって気付いたんだ。私はもう十分逃げた。だから、もう逃げない。逃げたせいで、大切なものを失いたくない」 逃げて逃げて、辛さから逃れて、もう何年もたったけど、私はあの時のまま何も変わっていない。 幼さ残る薔薇姫とともに身体ばかりが成長し、前にも後ろにも進めず立ち止まったままだ。 このままでは、何も変わらない。 「今の私には守るべきものがあるから。ボスも、ファミリーのみんなも、仲間達も、友達も、もちろんドクターも」 確かに忘れてしまえば今は楽になれる。 でも、完全に忘れることなんてできない。 今回みたいに、いつかまた思い出す。 辛いかもしれないけれど、逃げて、何かを失うくらいなら。 「私はもう一人じゃない。守りたいんだ。だからもう、忘れたくない。辛くても、もう私は忘れちゃいけない」 握られている右手に、入らない力をめいっぱい送ってドクターの手を包む。 「ありがとうドクター。いつも私の味方でいてくれて。支えてくれて、ありがとう」 逃げ道を作ってくれて、ありがとう。 ドクターは分かっているのだ。 私には、逃げ道がないことも。 ファミリーの副ボスとしての立場も。 そう微笑んだ私の言葉にドクターは、顔をゆがませた。 それは、決して人前では見せない、人間らしい表情だった。 「あぁ、優しい子よ。強く、気高く、なんと美しいことか」 痛々しくガーゼを張られている頬に手を伸ばし、ドクターは優しく触れる。 痛みを与えないように触れてくる暖かいドクターの手に優しさを感じた。 それと同時に 「そのまま、穢れないでいておくれ。純真無垢なまま、美しいままでいて。 たとえ血で濡れようとも、決して堕ちないでおくれ」 その声に感じたのは、狂おしいほどの愛と、執着。 「あぁ、あぁ、愛しい我が悠希。どうか、どうか死なないで」 私を置いて死なないでおくれ――― 、
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