変わらない現実と変わりゆく日常

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 ☆ ☆ ☆ 「──やめろ。じゃ、クリスに宜しく」  東條は手を一度上げて、その後振り返ることもなくせず踵を返した。この私が一瞬気圧された……? 報告書を読む限りふざけた男だが、一部身体能力では侮れない部分もあるという。とはいえ、個人でできる事は限られている。  私は仕舞ったスマートフォンを取り出し、指を滑らせる。相手は石動だ。 「石動か」 『はっ、如何されましたか』 「彼女は逃したか?」 『はい。屋外に出しましたが、念の為まだ監視下に置いております』  流石に慎重な男だ。そして使える。 「身体検査はしたか?」 『……申し訳ありません。緊急時でしたので目視確認と軽いボディチェックのみを』  先ほどの会話がこちらを油断させる為の演技だとしたら、排除するには無視してはならない要素か。東條も現在視界にはいない……。此処まで私にしてはかなりリスクの高い行動を起こしている。例の王妃がいつ動くとも分からない。かつての専属メイドに手を出した場合、こちらに刺客が差し向けられることもあり得るが……。  人一人を消すことなど容易いが、王妃というジョーカーの動向が測れない以上、軽々に動く事は──いや。 「一色」 「……はい」  名前を呼ぶと、物陰から些か暗い表情で一色臣人が顔を出した。この男は代々我が一族の諜報部隊の指揮を取る一色家の跡取りだ。まだ家督は継いでいないが。 「王妃はこの婚約者争いには干渉しないのだったな?」 「今までの動向を見る限りでは……。ただしクリセンド姫に害を(もたら)す事があればその限りではないかと」 「歯切れの悪い答えだな。お前が不正確な情報を掴むとは思えないが」 「いえ。可能な限り東條に近付いて探ってみたのですが、どうにも断定するには確たるものがありませんので……」 「──いずれにせよこの婚約者争い、王たる力を示せねば勝ち抜く事はできない、か」  此処で臆しては王とは言えまい。そして東條祐樹も王の資質を認められていた、つまり叩ける時に叩いておくのが上策か。出来る反撃など大層なものはない。 「下がれ一色、引き続き周囲の人間を探れ」 「は、はい」 「石動」 『はっ』 「可能ならば消せ」 『……よろしいので?』 「良い。ただし深追いはするな」 『かしこまりました』  通話を終え、私は教室へ歩き出す。さて、どうする東條。
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