変わらない現実と変わりゆく日常

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「吠えるのは貴様の自由だが、不可能な事を条件にするのは愚策だぞ?」 「不可能かどうかをお前が判断する必要はねぇよ。確実に俺はそう動くぞって事を覚えとけ」 「羽虫が集ったところで巨象は倒れないという事を知らないようだ」  怒らせないギリギリのラインで強い言葉を使う。強気すぎるのも危険だが、弱気なのも付け込まれちまうからな。スマホの中のユメに『これでいいんだろ?』と目で伝えると、瞬きが返ってきた。 『ではジルクレド様』 「ああ。解放しろ」 「待て」 「なんだ」  一応念のため言っておく。 「解放だけしてその後の事は知らん、なんて舐めた真似すんなよ?」 「ククク、存外用心深い男だな。私達の手の者は何もしない」 「偶然そこに居た知らない奴がどうするかは知ったこっちゃないか?」 「……石動。傷付けず外へ出せ」 『はっ』  本気で消しはしないが、軽く脅しは入れるつもりだったのだろう。ユメなら心配要らないが万が一もあるとやらせない方がいい。スマホの通話を切り、ジルクレドと呼ばれた男は髪をかきあげる。心なしか喜びの表情を浮かんでいる。 「何はともあれ、これほどまで簡単に話が進んで良かった。お姫様の気まぐれで大勢が不幸になるのを防げただけでも動いた甲斐があった」 「そりゃ良かったな。万歳三唱してシャンパンパーティでも開いたらどうだ?」 「……一つだけ気になっている事がある」 「あ?」 「なし崩し的に許婚になったとはいえ、以前の零司や神条への対応を見る限りゴネにゴネると予測していたが、やけにあっさりしていたな。何を企んでいる?」  神条? あぁ、神条魔王(まお)とかいうキラキラネームの金髪パーマンか。それはさておきジルクレドの疑問も(もっと)もで、確かに前の俺なら『俺は良いけどクリスの奴が~』とか理屈こねこねしてただろう。 「ユメが大切になっちまったからな。そんだけだ」 「……所詮は高校生の感情か。ならばもし彼女が帰り道やふとした瞬間に襲われでもしたら、さぞや嘆き悲しむ事だろう」 「やめとけ。絶対に後悔する」 「貴様ごときが私を後悔させる事ができると?」 「そういう低次元の話じゃねぇよ。今更念押しする必要もねぇけど、絶対に手ェ出すなよ? お前の部下や友人や家族がお前を恨むことになる」 「大層な自信だが」 「──やめろ。じゃ、クリスに宜しく」
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