祐芽という女、祐樹という男

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 ジルクレドとのやりとり後、俺は食堂に向かわず一旦教室に向かっていた。理由は体操着だと外で目立つしスマホを置いて来たからだ。廊下や階段、テラスに向かう生徒達が(まば)らに歩いているが、見知った顔はいない。一人を除けば。 「おやっ? 東條君だね、久しぶりっ!」 「……新聞部の」 「満川月夜(みちかわつくよ)だよ! 覚えておいてよ!」 「お前一回しか出てきてねぇだろ。無茶言うな」  やたらとハイテンションで手を振るこの小動物は臣人も所属している新聞部の部長、満川月夜。接点としては、以前姉貴が朧理事長んとこに乗り込んだ時にスクープスクープ喚きながらはしゃいでた事。あん時は捏造記事のおかげで一週間はエライ目にあったな。 「さてさて早速だけどインタビューしちゃうよっ! 君は今クリスちゃんと破局寸前なんだって?」 「……何処から仕入れたその情報」 「私のグレーゾーン情報収集術にとってこんなのお茶の子さいさいだねっ」 「法律には触れてないだろうな?」 「だからグレーゾーンだよ。ブラックゾーン収集術もあるけどねっ」  それは完全に違法なんじゃないだろうか。 「まぁな。振られちまったよ」 「えぇっ? 意外だね! どちらかと言えばクリスちゃんの方がベタ惚れに見えたんだけど……」  満川は目を輝かせふむふむ言いながら取り出した手帳に殴り書きしていく。振られただけの一言でそんなに書く量はないと思うが。  ふとペンを止め、満川はポケットからゴソゴソと何かを差し出した。 「じゃあ取材料として飴あげる!」 「ガキか俺は!」 「ガキでしょ(正論)」 「せやな」  と、思わず相手しちまったが無駄話してる場合じゃない。受け取った飴を口に放り込み、満川の横を通ろうとすると、袖を引っ張られた。 「?」 「耳寄りな情報があるんだけど聞いとく?」 「今忙しいから今度な」 「マリアちゃんの現在地予測なんだけ──」  頭が考える前に、満川の胸倉を掴み顔の前まで引き寄せていた。俺は制服が破れそうなほど拳を握り締めていた。 「テメェ、あの銀髪の仲間か」 「ちょちょちょ! いきなりどうしたんだいっ? 白昼堂々と暴力はまずいよ!」  そんな単純なことすら忘れるほどに感情が怒りに染まっていたようだ。少ないとはいえ、遠目から何人かがこちらに注目していることに気付く。
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