祐芽という女、祐樹という男

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 遮蔽物にはなりもしないが、ないよりはマシだってことで電柱に隠れながら様子を伺う。見張りはおらず、物が散乱している様子もない。 「本当にここであってんのか?」 『データ上はな。ただ祐樹がジル何某と会話してから場所を移動したこともあり得る』 「面倒だな。一旦マリアに電話してみるから切るぞ」 『わかった。そろそろこちらのドローンもそちらに着くから不用意に空を見上げるなよ』 「お前有能すぎへん?」  こんなにイケメンで出来る男はクロードなんて名前のはずがない。  それはそれとしてマリアに再び電話を掛ける。プルル、とコールしても出る気配はない。ダメか……と諦めかけた矢先、通話状態に切り替わる。違う奴が出た時のために間違い電話のフリしとくか。 「あ、もしもし吉田さん?」 『はい、吉田さんですが何か用ですか?』 「え、吉田さん無事だったのか!?」 『ええ、吉田さんは現在逃亡中です。何人か殺……気絶させましたが追っ手は怯んでいない様子です』 「マジかよ吉田さん殺……いや生きてて良かった。今どこにいる?」 『さぁ? 隠れながら移動してますので。吉田さんは自由を求め飛び立つ鳥なので見つかりませんよ』  これマジ? 吉田さんハイスペック過ぎんだろ……。ひとまずこのゲーセンには居ないようだ。となると、このゴーストタウンの何処かか? それにしちゃ映像に映ってた黒服の男達が見当たらない。  たまたま出くわしてないだけなのか、完全に見当違いの場所に俺がいるのか……。とりあえず無事なら良いけどさ。 「必ず探し出すからな。待ってろ」 『完全に悪役のセリフですね』 「うっせ」 『祐樹』 「おまっ、名前出したら偽名使ってた意味ねぇだろ! どうせ通信傍受されてんだろうが」 『愛してます』 「……俺もだよ」  通話を切る。まぁいいや、とりあえずなんか今ので吹っ切れたから。邪魔する奴皆殺しにするわ。  クロードに掛け直す。 「連絡ついたぜ。ひとまず逃走中だが無事だ」 『ふぅ。それは良かった』 「んで、マリアが自由を求め飛び立つ鳥とか言ってたんだが、これの意味わかるか?」 『は? いや暗号か……』  人間は空なんか飛べないし、あくまで比喩だろうが、敵にはマリアがふざけた奴だと伝わっているが真意がこちらには分かるに違いないっつー憶測。思えばカメラ通話してた時からふざけた奴という印象を与えたかったのか。
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