祐芽という女、祐樹という男

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『……そうか、わかったぞ』 「マジで?」 『恐らく今彼女は走り回って見つかるところには居ない。四方壁に囲まれたところ、もしくは上空からでないと発見出来ない場所にいるはずだ』 「ほうほう。じゃあ偵察機でも──」 『君の記憶は数ページで消去されるのか? 僕のドローンがもう動いているだろう』 「誰がクリスだ」  まぁそもそもマリアなら隠れずともあんな奴ら片っ端からぶっ殺して余裕の帰宅かましそうなもんだがな。隠れる必要あんまなくね感はある。  ……ん? 『全く、屋敷で会った時とは別人だな。やる気なさげな振りしてここまで頭が回るとは。僕のドローンのことを知っていたのか──む、アレか?』  そうだ、アイツは俺への嫌がらせ以外無意味なことはしない。ましてや俺がクロードを頼ることを想定したのなら、通信傍受されてる可能性を考慮したのならわざわざ電話で俺の名前出してまで『愛してます』なんて言わない。 『空き家の塀の裏なんて意外とわかりやすい場所に──なにか様子がおかしいな』  猛烈な勢いで嫌なフラグが立っている気がする。 『……塀に背中を預けたまま周囲を警戒する気配が全く見えない。いやそれどころか動いてすらッ──!』 「今すぐ場所言え」 『あ、あぁ……すぐに救護班を……』 「クロードッッ!!」 『急げ祐樹! こちらも応援を向かわせる!』  おいおいおい! クソ映画じゃあるまいし安いシリアスシーンなんていらねぇぞ……! クロードの焦る声に従い俺は一目散に駆け出した。  ☆ ☆ ☆  いえーい、ぴすぴす。今話題のサブだと思ってたらメイン掻っ攫ちゃう系ヒロインの吉田さんです。嘘です、マリア・イスマイールです。それも嘘です、祐芽です。でも面倒なので普段はマリアと名乗っています。女には色々事情があるのです。  今日は実に災難な一日で、主人公気取りのバカの政略争いに巻き込まれた形で誘拐されてしまいました。ちょうど転居に伴う手続きのあれこれや家事の途中で仕事用道具を持ち合わせていなかったので、特に抵抗もせずされるがまま辱めを受けることにしました。嗚呼、なんと可哀想な私。  場合によっては適当一人二人殺、気絶させて脱出しようと思ったのですが、思ったより黒服達が手練れだったため様子を伺うことに。
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