祐芽という女、祐樹という男

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 石動に導かれるまま歩いていく。連れて来られる時は一度車に乗せられた上に目隠しをされていて場所の把握が出来なかったので、現在は地下にいるということにしかわからなかったのですが、どうやら此処は古ビルの中ですね。ゲーム機の筐体が複数置かれてますが、何台かは画面が割られていたり砂嵐が表示されているだけ。ゲームセンターとしては機能していない。  それと床の一部に血の痕があります。対戦ゲームで相手を煽りまくってリアルファイト沙汰になったに違いありませんね間違いない。名探偵すぎる自分が怖いです……。 「立ち止まらず歩け」 「おや、失礼。長時間同じ姿勢だったので足の筋肉が固まってしまいました。もう大丈夫です」  黒服の面相を素早く一瞥する。サングラスを掛けている上に、どいつもこいつも似たような髪型で判別しづらいですねぇ。いっそ武藤遊戯並みのファッションヘアーにしてもらいたいです。  それと全員が所持しているわけではなさそうですが、拳銃を懐に入れているようで、もし手を拘束されながら吹っかけていたら私の脳漿が吹っ飛んでいたかもしれませんねHAHAHA。劉鬼様やキサラ様のような人外ならまだしも私のようなパンピー人気投票No. 1ヒロインには荷が重すぎます。  狭い通路を抜け、来た時に下ったであろう階段を登り切ると、ようやく太陽光ビームを全身に受けることができました。 「もう私は行って良いので?」 「ああ。他言無用の条件付きだがな」 「言ったところで私にメリットが全くないので帰りますね」  正確には言ったところで揉み消され、足取りを掴まれ消されるだけ。別に私は後継者争いなど『もう』どうでも良いので本心から言う気はない。祐樹さえ居れば。  ……いえ、今のは失言ですね。モノローグまで馬鹿なことをのたまえば色ボケチョロインとしてポジションが確立してしまいますから。あくまでクールビューティー系で行くつもり──って何の話をしているんだか。  背後を警戒しながらとりあえずあさっての方向へ歩き出す。流石に彩のように銃弾を受け止めるのは不可能だ。精々軌道を変えることぐらいしか出来ないひよわなシャイガール、それが私。  などと可愛いことを考えていたら後方で撃鉄を起こす音。振り向くなんて馬鹿な真似はせず、姿勢を低く左側へ転がり電柱へ身を隠す。その瞬間、私のふくらはぎがあった場所を銃弾が通過した。
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