祐芽という女、祐樹という男

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  ☆ ☆ ☆  ジルクレドより下った指令に、石動達は唯々諾々と動き出した。その後の『処理』を考えてもこの場で殺害してしまっては色々と支障が出る。まずは足でも撃って動きを止める……そう軽く考えた故の発砲だった。消音機(サウンドサプレッサー)を着けた銃だが、どういう理屈か背を向けたままのマリアは転がって回避した。  驚愕と動揺が一同に広がるが、石動が一拍置いてすぐさま捕縛を指示すると、速やかに黒服達は動き出した。  だが、電柱へ駆けた黒服の足はすぐ止まることになる。 「お、女が居ません!」 「何だと?」  電柱の裏で人間一人が消えるはずはない、何が起きた?  その答えはすぐに考えればわかるはずだが、一瞬の思考ブレーキにより身体を止めてしまったことがミスだった。マリアが数メートルよじ登っていた高さから急降下し、反応に遅れた黒服の頸椎を瞬時に捻転させ、流れるような所作でもう一人の男喉笛を指二本の貫手で突き刺し、毟り取った。  そして二人が膝をつき意識をこの世から離脱させる前に、拳銃二丁とナイフを奪う。 「二流ですね」 「撃てッ!」  マリアの挑発を聴き終える前に石動の射撃指示に全員が反応する。マリアは既に肉塊となった黒服を盾に銃弾を受け、その間に塀を乗り越えて脱出した。  人攫いの任務では、大人数で動くなどもっての他。ましてや腕の立つものよりも、素早い行動が出来る者を中心として編成されている。必然的に7名ほどからなる少数精鋭だったが、それが仇となった。 「い、石動様……」 「狼狽えるな。二人組で捜索しろ。なるべく死角を作るな、相手は素人ではない」 「はっ……」  捜索班と別れて石動が元部下だった二人に近付くと、銃だけではなく無線までも盗まれていた。 「あの一瞬で……何たる女だ」  冷静沈着な石動も流石に歯軋りをせずにはいられなかった。本来ならジルクレドに報告すべき事だが、部下が殺され武器も奪われ現在追いかけていますでは話にならない。悩んだ結果、捕縛してからの報告をすることにした。それが正しい判断だったのかは今はわからないが。
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