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「ん……?」
チビチビどころかガバカバと酒を飲んでいると、何やら視界の端に見たことのあるものが入ってくる。
と言っても、普通の人ならば点にしか見えないくらいの距離があったが―――
「あの着物は……」
そう言いながら、再び酒をつぐ。
もはや月を愛でるつもりはないようで、その点のようなものをじっと凝視していた。
「―――噂とは、馬鹿にはできないようだ。」
あんな派手な着物を着ている人物など、ただ一人しか知らない。
皿を投げ捨て酒瓶から直に酒を飲みながら、真っ赤な唇を三日月の形にする。
「下戸疑惑―――晴らしにいくか……」
そう言って、ゆっくりと立ち上がる。
結構な量の酒を飲んでいるはずなのに、ふらつくようなことはなかった。
再び焼け付くような酒を喉に流し込んでから、頭巾をきちんと直す。
するとその瞬間、すでにそこに人影はなかった。
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