三.

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「ん……?」 チビチビどころかガバカバと酒を飲んでいると、何やら視界の端に見たことのあるものが入ってくる。 と言っても、普通の人ならば点にしか見えないくらいの距離があったが――― 「あの着物は……」 そう言いながら、再び酒をつぐ。 もはや月を愛でるつもりはないようで、その点のようなものをじっと凝視していた。 「―――噂とは、馬鹿にはできないようだ。」 あんな派手な着物を着ている人物など、ただ一人しか知らない。 皿を投げ捨て酒瓶から直に酒を飲みながら、真っ赤な唇を三日月の形にする。 「下戸疑惑―――晴らしにいくか……」 そう言って、ゆっくりと立ち上がる。 結構な量の酒を飲んでいるはずなのに、ふらつくようなことはなかった。 再び焼け付くような酒を喉に流し込んでから、頭巾をきちんと直す。 するとその瞬間、すでにそこに人影はなかった。 .
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