2人が本棚に入れています
本棚に追加
これは私がまだ赤いランドセルをよいしょしていたある秋の話だ…
まだ無邪気で疑う事も傷つく事もしらない私の話。淡い。黄昏のような
ドン、ドン、
「おばぁちゃん!太鼓の音や~」
「ほんまやねぇ。そろそろお御輿が出てきたんやろうね」
はしゃぐ私を少し微笑みながらおばぁちゃんはなだめる。
でも誰もこのウキウキした気持ちを抑える事はできなかっただろう
私にとってお御輿の太鼓の音や掛け声は秋の音のひとつだった。
小さな胸に少しばかり響いてくるものがあったのだろう。
秋祭りの時期になると親戚のほとんどがおばぁちゃんの家に集まり騒ぐ。この上ない楽しみだ。
お御輿を担ぐ準備を終えて出ていく年の離れた従兄弟三兄弟やら、それを見送る女性陣。ふんどしをまわし座敷に腰かけた父と父の古い友人達は思い出話に花をさかせている。
どれも鮮明に覚えている。
昔から遊び相手も周りも年上が多かったせいで年上の人の扱いに慣れていた私にとっても今度ばかりはやっぱり退屈な待ち時間でしかなかった(自分で言うなって)
ド~ン、ド~ン、ド~ン“サァ~ワッショイ”ド~ンド~ン
秋の音。
次の瞬間。私の足は何を思ったのかその音を目指し華麗に地面を蹴りだしスタートをきっていた
誰に止められたって引き返す気はさらさらなかった。
誰も止められはしない私の俊足!(黙れ)
運がよければお御輿を担ぐ従兄弟のお兄ちゃん達を拝めるかも
なんて今の私は考えるかもしれないけど、その頃の私は純粋に秋の音を追い掛けたいだけだった。はず…(笑)
最初のコメントを投稿しよう!