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異変は前兆も無くやって来た。
その日リーシャは体調を崩し、1人マリオンの家に留まっていた。
慣れない作業の連続で疲れたのだろう、そう思ってマリオンも無理強いはしなかった。
けれど、…もしあの時に戻れるのならばマリオンは無理矢理にでも彼女を連れ出しただろう。
あんな―――あんなにも変わり果てた彼女を見るくらいならば。
夕刻、玄関をくぐって呆然とした。
今朝笑って見送ってくれた彼女の白いワンピースが、初めて会った時のように深紅に染まっていた。
彼女の腹部からは大きな刃物の柄が飛び出ていて。
未だ血が止まっていない。
「リー…シャ、リーシャ!?」
信じられない現実に足が縺れた。
「マリオン…」
もう殆ど聞き取れないくらい小さな声で、彼女が返事をした。
「大丈夫だから、俺が来たから、だから」
「ごめんね、ビックリしたでしょう…」
必死に血を止めようとするマリオンに、リーシャは弱々しく微笑んだ。
「リーシャ!笑ってる場合じゃ…」
そんな彼女の仕草がもうお別れなのだと言っているようで、マリオンは情けなく顔を歪めた。
「ねぇ、マリオン。わたしね、貴方に感謝してるのよ」
「だったら」
「でもね、これは仕方のない事なの。黙ってて本当にごめんなさい…」
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