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怖いもの見たさと正体の分からない物への不安から、恐る恐る振り返る。
そこにはまるで闇から出てきたような、背の高い少年がいた。
少年期から青年期に移る間。
彼は少年特有の線の細さを残しながらも、その体は既に大人へと変貌しつつあった。
艶やかな黒髪に恐ろしく整った顔。
なによりリアスの目を惹き付けたのは、感情を映し出さない冷たい黒の瞳だった。
「誰…?」
ようやく誰かに会えた事と、そこが館の敷地内だった事。
2つの理由からあの日のリアスは特に怯える事も無く、近寄って行った。
「誰でも無い。ここで何をしている」
変声期なのか掠れた声で彼は、それでも幼いリアスの問いに答えてくれた。
「…?ボクはその、帰り方が分からなくなっちゃって…」
日頃母が口を酸っぱくして、貴族として恥ずかしい行いをするなと言っていた。
破れば恐ろしい体罰が待ち受けていた。
それなのにリアスは、貴族として相応しく無い行いをした。
途端に沸き起こる、羞恥、それを上回る恐怖。
彼がきちんと名を名乗らなかった疑問よりも、そちらの方が大きかった。
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