226人が本棚に入れています
本棚に追加
今なら分かる。
彼は、異母兄は名乗らなかったのでは無い。
名乗れなかったのだ。
あの頃の異母兄は彼の母親を亡くしたばかりで。
妾から後妻になったリアスの母からは目の敵にされていた。
彼になにもかも及ばない実の息子への、苛立ちもあったのかもしれない。
それでも異母兄はリアスを恨まず、あえて名乗らない事でリアスを守ってくれたのだ。
自分の考えに夢中になっていた幼いリアスは、彼が身を翻した音で、目線を彼に戻した。
ようやく出会えた相手が自分を置き去りにしようとしている。
「あっ!待って」
心細さにとっさに追いすがった。
「………」
無言で振り向いた彼の目に射すくめられて、初めて彼の服の裾を掴んでいた事に気付いた。
「あ、の」
「俺は館へ戻る。お前は好きにしろ」
淡々と紡がれた言葉の意味をとっさに計り損ねた。
僅かな間に彼は歩き出す。
幼いリアスは慌てて後を追った。
最初のコメントを投稿しよう!