懐かしい記憶。

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今なら分かる。 彼は、異母兄は名乗らなかったのでは無い。 名乗れなかったのだ。 あの頃の異母兄は彼の母親を亡くしたばかりで。 妾から後妻になったリアスの母からは目の敵にされていた。 彼になにもかも及ばない実の息子への、苛立ちもあったのかもしれない。 それでも異母兄はリアスを恨まず、あえて名乗らない事でリアスを守ってくれたのだ。 自分の考えに夢中になっていた幼いリアスは、彼が身を翻した音で、目線を彼に戻した。 ようやく出会えた相手が自分を置き去りにしようとしている。 「あっ!待って」 心細さにとっさに追いすがった。 「………」 無言で振り向いた彼の目に射すくめられて、初めて彼の服の裾を掴んでいた事に気付いた。 「あ、の」 「俺は館へ戻る。お前は好きにしろ」 淡々と紡がれた言葉の意味をとっさに計り損ねた。 僅かな間に彼は歩き出す。 幼いリアスは慌てて後を追った。
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