「うんこをしたい男」 1.うんこしたい

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「あれ。今日は営業車じゃないんですか?」    客用の駐車スペースは空だ。 俺はバスで来ている。 それと言うのも社用車のタイヤがパンクさせられていたからだ。 刃物で刺したような大きな穴が開いていた。 俺が普段使っているものだけでなく他の数台もやられていた。 思えば不運はその時から始まっていた。 空気漏れで別のも漏れるなんてシャレにならない。   「今日はちょっと車使えなくてバスで来たんだ」 「あー、そうですかー。 送ってもらえるかもってちょっと期待してたんですけどねー」    普段なら社用車とはいえタカコちゃんとドライブする機会を失ったことを悔しがっているだろう。 しかし今俺の頭の中はどうやってうんこをするか、そのことでいっぱいだ。   「あ」    来た。 キヤガッタ。 一層腸がぐるぐると唸る。 まるで腸そのものがうごめいているようにすら感じる。 本隊の出陣だ。 液状のものが流動して直腸へ降りるのを感じた。 ここからが本当の地獄だ。   「どうしたんですか?」    何も知らないタカコちゃんは無邪気な顔で聞く。 嫌だ。 彼女の前でぶちまけるなんて絶対にごめんだ。   「いや、ちょっと思い出して……そ、それじゃね」    下半身に妙に力の入った硬い動きで歩き出す。 “ホーホーノテー”というやつだ。 いや違ったか。    こうなったら乾いた側溝かなにかあったらそこに飛び込んでしまおう。 田んぼが多い土地なので遮蔽物はないが人も少ない。 すっと脱いでぶりっと出してさっと拭いてぐっとズボンを上げる。 これでいける。 というかもうこれしかない。  側溝は、物陰はどこだ。 キョロキョロしながら歩いていると後ろをタカコちゃんがついて来ていることに気がついた。
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