396人が本棚に入れています
本棚に追加
もう少し、もう少しでトイレだ。
入口へ入った。
目隠しのカーブを抜けて、ゴールだ!
小便器になんて目もくれないぜ!
個室だ!
いざ個室へ!
個室へ飛び込むつもりが、できなかった。
進むことができなかった。
トイレは学ランリーゼントの時代錯誤なヤンキーがひしめいていたからだ。
歩く隙間がないほどのうんこ座りの列だ。
手にはタバコの高校生か。
あ、高校生だ。
「ああん? なんだよおっさん」
お前らの方こそなんだ。
今の俺ほどトイレに相応しい人間はいない。
乾いた笑いでごまかして進もうとしたがなにしろ歩く隙間がない。
「おっさんうんこ?」
俺はこくこく頷いた。
虚勢を張る余裕がない。
若者に馬鹿にされようがどうでもよかった。
無事うんこさえできれば。
「トイレは有料でーす」
お調子者の声だ。
正直それを待っていた。
金さえ払えば確実にうんこができるならもうそれで構わない。
5千円くらいなら労働の重みよりも俺はうんこをしたい。
「ちょっと待てよ」
さっと財布を出した俺をひときわ大きなヤンキーが止めた。
払わずに済むのか?
と思えばそうじゃあなかった。
「おっさん俺たちなめてんの」
どうやらなにかスイッチを押してしまったらしい。
怒っている。
「ちょっと外で遊ぼうよ」
肩をつかまれ、ようやくたどり着いたトイレから連れ出される。
変に力むと漏れそうになるので抵抗できなかった。
ちくしょうこんなやつらうんこさえ出そうでなければ……いや無理だな怖い。
高校生にもなれば体格は変わらない。
俺より大きいやつもいる。
最初のコメントを投稿しよう!