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「ど、どうしたの」
黙って郵便物を見せられる。
出しに行くということだろう。
「げ、月曜でよくね?」
早く目の届かない所に行って欲しい。
街中なら「ちょっと用が」なんてテキトーに街角へ消えることもできるが、こうなにもない田舎だとそうもいかない。
「明日だと夕方になっちゃいます。一日でも早い方がいいやつなんですよ」
この地域だとバイク便サービスはないかもしれないが、宅配業者のメール便サービスが使えるはずだ。
しかしあまり言うと不自然になる。
「そ、そう。じゃあ頑張ってね。サンプルでき次第連絡ください」
そう言って歩き出す。
側溝、側溝はどこだ。
「どこに行くんですかー?」
道路に出たところでタカコちゃんに呼び止められる。
ええいこれ以上なんの用だ。
待てと言われてもこっちの肛門は待ったなしだとわからないのか。
わかられると困るんだけども。
「バス停反対ですよ」
「あ、ああ……ちょっとボーっとしてた」
「大丈夫ですか? 顔色悪いですね。ちゃんと休まないとだめですよ」
今頑張らないといけないのはお前のせいだ。
そう思いつつも空笑いを返す。
ポストがどこにあるか知らないが彼女はそこへ行ってサヨナラだ。
そこまでどうにか乗り切って少しでも見えないところへ飛び込んで野グソ。
プランはこれだ。
これなのに。
「私原付の免許持たないからお使いはバスなんです」
「タァカコちゃんもバスに乗るの?」
声が裏返ってしまった。
全力で尻に力を込めながら笑顔を作るのは難しい。
「この辺ポストないんですよ。
ほんとは近くにあるんですけど、円柱の古いタイプで、どんぐりが中に入ってたみたいで芽を出して中から木が生えちゃってるんですね。
生命の神秘ですよねー」
植物なんかみんなみんな枯れてしまえばいいのに。
それとも更なる成長を期待して肥やしをくれてやろうか。
「そう、大変だね」
精一杯の愛想笑い。
こんなに辛い思いを堪えて笑顔を作ったのは初めての取引先との宴会であんなことをやらされて以来だ。
タカコちゃんは田舎のいいところ悪いところを語り始めた。
もちろん俺はそんな話に耳を傾けているような余裕はない。
うんこをしたい欲求でいっぱいだ。
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