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二人歩いている歩道の脇はガードレールもなにもなく土手から用水路になっている。
いっそタカコちゃんをそこへ突き落として彼女がどんぶらこと流されているうちに脱糞するというのはどうだろう。
駄目だ、用水路は深さこそあるものの水量はたいしてなくカエルすら流されないでいる。
バス停に着いた。
てっぺんに停留所の名前がついた丸い板のあるスタンド型のバス停と、ボロボロに朽ち果てて座るのをためらうようなベンチがあるだけだ。
タカコちゃんはまだこの辺りの環境について話している。
それにしてもよく喋る女だ。
彼女があの事務所に入ったばかりの頃はどうにか個人的な話を引き出そうと苦心したものだが、こんなにうっとうしい想いをするとは思わなかった。
灰皿代わりだろう、バス停に缶がくくりつけられていることに気がついた。
かなりおおぶりで、外側の塗装は錆びついていてそれが元々なんだったかうかがい知れない。
ふと考える。
これなら入るな。
タカコちゃんは自分の話に夢中だ。もしかしたらいけるんじゃないか?
俺は脳裏をよぎった悪魔の思い付きを慌てて振り払った。
それは駄目だろう人としてありえないだろう。
人の見ている前で、それも異性の、更にはタカコちゃんだ。
さっきはちょっとウザいと思ったが、タカコちゃんは俺のお気に入りだ。
彼女に産声を聞かせるわけにはいかない。
でもいけるんじゃないか?
再び悪魔の考えがちらつく。
要はばれなければいいんだ。
視線なんてそらせばいい。
遠くを指差して「あれはなに? ほらアレアレ」なんて言いながらそちらを向かせておいて尻を出し―――。
音がしたらどうするんだ。
いかんこのプランは駄目だ。
ていうか最初から無理だ。
しかし無理といっても、この状況で平和的な解決は無理じゃないか?
奇跡を待つような思いでうんこをできる機会を待たなくてはいけないのか。
トイレが、トイレがこれほど遠い存在だとは思わなかった。
腸は内部で圧縮されているような痛みが続いている。
直腸に居座っているヤツも肛門が開くのを今か今かと待ち受けている。
奇跡か。
待ってやろうじゃないか。
覚悟を固めて、ボロボロのベンチに腰かける。
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