2.うんこしたい

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 炎天下、粗末なバス停のそばに立つのはうんこをしたい男がひとり。 それと日焼けも気にせずわざわざ当日回収もしない郵便物をポストへ出しに行く若い女。    砕けたベンチは諦め立ってバスを待つ。    考えてみたらバスが来るまで30分の間にゴショガワラさんもトイレから出るだろう。 事務所に戻ればトイレが使える。 しかしそれはタカコちゃんの目に不自然に映る。 職人しかいないあそこに俺だけで行っても話のできる相手はいないのだから。    不自然? そんなものいいじゃないか。 今にも超天然ものが生まれようとしているじゃないか。 だから、ああ――ああ。    携帯電話が鳴った。 電波はかろうじて通じているような状態だ。 我に返ってボタンを押し通話した途端、慌てた声が聞こえてくる。   『家の電話通じなかったけどお前今どこにいるんだ』    嫌な同僚ナンバーワンのズイダだ。   「休日出勤中です。 用事は済んだんで社に戻るところですけど」 『なんだ、お前。声リキんでるぞ。うんこ中か』 「殺すぞ」 『なんだって?』 「なんでもありません」 『………まあいいや。 お前戻ったらちょっと付き合ってくれよ。 クレーム入っちまってさ。 下げる頭は多い方がいいだろ。 1時間以内に戻れよ。 じゃあな』    一方的に言って切ってしまった。  勝手な言い草だ。 時計を見る。 それほど余裕はないがどうにか間に合うだろう。 それまでには胃腸の問題も解決しているに決まっている。 逆に言えば一時間後もこの問題に悩まされているなんて考えたくもない。    しかしこれで来た道を戻る余裕はなくなった。
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