2.うんこしたい

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「日曜なのに、お仕事大変ですねえ」 「タカコちゃんだって同じじゃない」    わざわざバスを使って明日回収される郵便物を出しに行くとはとんだ仕事熱心ぶりだ。   「来客があるってわかってたから」    来客というのは俺のことだろう。   「それじゃあ、俺のせいで休日出勤したの?」 「せいっていうか、ためっていうか」    急にタカコちゃんがもじもじし始めた。    彼女もうんこをしたくなったんだろうか。 なら好都合だ。 野グソも二人なら、少なくとも彼女に責められるいわれはない。    また携帯電話が鳴った。 懐かしい市外局番が表示されている。   『もすもす、お兄ちゃんかぁ?』    電話ではなおさら聞き取りにくい地方なまり。 そう感じるくらい故郷を出て過ぎた時間は長い。   「かーちゃん、どうしたんね。 電話よこすなんて珍しいこともあるもんだ」    つられたはずのなまりが不自然に感じる。 親不孝だと思うが、俺は今そんなことよりうんこがしたい。    名前で呼ばれないのは年の離れた妹がそれだけかわいがられているからだ。 慌てた様子で電話してきたのも、どうせ妹に関係していることだろう。   『メイちゃんがいなぐなったんだあ』    案の定妹の名前が出てきた。 妹は地元の大学の卒業を控え就職活動中のはずだ。    また男か。 妹は根が馬鹿に素直というかなんというかで同じ男に何度も騙されては泣かされている。 それで時々荒れて親を困らせたり俺に電話してきたりするが、ここ数日はなにもなかった。   「こっちに連絡があったら家に帰るよう言うが。 ああ、したらな」    電話を切る。 ため息と共に全身の緊張が緩みそうになって慌てた。 そっと尻に手をそえた動作をごまかすため軽く背伸びをするが、尻に力を入れたままなのでたいして伸びない。
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