2.うんこしたい

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「なにかあったんですか?」    好奇心丸出しのタカコちゃん。 彼女に地元のなまりを聞かれたのは初めてだ。   「実家から。妹が失恋で失踪だって」 「大変じゃないですか!」 「よくあるんだよ。しょっちゅうなんだ。いい加減懲りるっていうか、大人になってほしいんだけどね」 「でもそれだけ純粋に恋愛してるってことじゃないですか」    それからタカコちゃんは頼みもしないのに恋愛論についてぺらぺらと喋り始めた。 もちろん俺は聞いていない。 そんなことよりうんこをしたいからだ。    とにかく腹部に衝撃を与えないよう呼吸すら慎重になる。 思い切り腹式呼吸をして胃が膨らめば腸を圧迫してしまう。 それは避けたい。    人間の体は口から肛門まで繋がっていることを思い出した。    俺は今うんこが出そうで困っている。 直腸まで来ているうんこを少しでも押し戻すことができれば、きっと楽になるはずだ。 うまいことどんどん持ち上げて、口から出せばタカコちゃんもまさかそれがうんこだとは思うまい。    いや現実的に考えて口からうんこを出すのは無理だ。 しかしもしわずかでも楽になるならばと喉を舌で塞ぎどうにか体内の気圧で持ち上げようと頑張ってみた。 「イチルノノゾミ」というやつだ。 これはきっと合ってる。    真横でタカコちゃんはひとり盛り上がっている。 この暑い中汗ひとつかいていないから不思議だ。 俺は汗腺と一緒に肛門まで緩んでしまわないよう抑えるのに必死だというのに。   「――だと思うんですよぉ。そう思いません?」    質問された。 うんこをすることしか考えていなかったので話は聞いていない。 少しイライラしながら返事に迷う。   「ああ、俺もそう思うよ」    タカコちゃんは返事に満足したようで更に話を続けた。 英語で言うところの付加疑問文での質問なので、こういう場合要は同意さえしておけばいいはずだ。 解答が間違ってさえいないのならこの際問題はどうでもいい。 それよりうんこだ。
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