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もうすぐだ。
もうすぐうんこができる。
どれだけ待ったことか。
耐えたことか。
デパートの扉が目の前だ。
きっと腹に厳しい冷房の嵐になる。
デパートの一階といえば食料品も扱っているのでひときわかもしれない。
だがもうゴールが見えている。
苦に感じない。
「またあとで電話するから、ちょっと一旦切るからな」
デパートだろうと店の中を電話しながら歩き回る神経は俺にはない。
通話を切り、はやる気持ちを抑えつつドアノブを握る、はずだった。
俺の手はタカコちゃんに捕まえられた。
ノブまでもう数センチ、そんな距離だ。
「私の話まだ終わってません」
彼女はどうして俺の状況を理解していながらこんなマネができるんだろうか。
あれか、Sなのか。
今の俺のピンチを楽しんでいるならもうひとつフェチがありそうだ。
「ごめん、俺そういう趣味ないんだ」
俺がタカコちゃんと相性の良い趣味の持ち主なら今の状況も辛いばっかりじゃあなかっただろう。
「趣味ってなにがですか? 私じゃ合わないってことですか?」
性の不一致は離婚事由になるらしいがなんにしても恋人でもなんでもない俺をそういう対象にするのはやめてほしい。
「タカコちゃんがっていうか、そういうこと全体っていうか」
「まさか異性が駄目ってことですか?
だったら趣味がないっていうか……逆に趣味があるっていうことじゃないですか?」
「ええ? なんでそんな話になるの?」
なんだかさっぱり話がかみ合わない。
バスを降りてからずっとだ。
「付き合って欲しいって言ったでしょう!」
タカコちゃんは涙目になって大きな声を出した。
俺はア然としてしまう。
わけがわからない。
一体いつのまにそんなありがたい話になっていたのか。
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