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ああそうだ。
バスの中だ。
俺が全然話を聞いていない間にそういう展開になっていたんだ。
俺がうんこを我慢するのに専念している間に彼女も大変な思いをしていたわけだ。
一瞬気が緩んでしまった。
背中を反らしてこらえる。
もう駄目だ。
ずっと余裕なんかなかったがいよいよだ。
もう待てない。
タカコちゃんを振り払って進もうとすると、ドアノブを抑えられてしまった。
そうだった。
思い違いはお互いで、彼女は俺の事情を把握していなかったんだった。
タカコちゃんも痴話げんかのようなやりとりを人目のある店内ではしたくないんだろうが、俺の方はとっくにロスタイムだ。
「頼む、どいてくれ」
「答えだけ出してください。嫌なら嫌でしつこくしませんから!」
彼女も必死だ。
俺の方が必死だと思うが、彼女も必死だ。
もう駄目だ。
駄目だ。
出る。
ていうか出てる?
もう開いてないか?
コンニチワ!
「タカコちゃん」
「はい」
「伝えなきゃいけないことがある」
「はい」
彼女の頬が赤いのは暑いからじゃあないだろう。
俺の顔が赤いのもそうだ。
「うんこしたい」
俺が決死の覚悟で言うと、タカコちゃんの顔から乙女の表情が消えてドアの前から引いた。他にも引いたと思う。
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