396人が本棚に入れています
本棚に追加
デパートに入る。
途端に冷たい空気に包まれて体が震えた。
入ってすぐのところにあった店内の案内図を見る。
一番近いトイレは……2階だ。
エレベーターまでが遠く、すぐそばにある階段を上ってすぐのところにトイレはある。
迷わなかった。
真上にトイレがあると思うと少しも離れたくない。
階段を一歩一歩、腿に力が入ると大変危険なので足首を伸ばしてつま先で反り返るようにしながら上る。
疲れるが、たった一階上ればいいだけだ。
タカコちゃんがついて来ている気配はなかった。
それでいい。
告白中にうんこを我慢していた男なんて嫌だろう。
さっきも今も、俺はそのことで手一杯だ。
ここまで犠牲にしたんだ。
俺はなんとしても無事にトイレに着かなければならない。
今もきわどい状態だ。
出産なら医者が「頭が見えてますよ! もう少しだから頑張って!」と母体を元気づけるシーンだ。
もちろん俺にとって産声は断末魔なので頑張っちゃ駄目だ。
絶対に駄目だ。
2階に上る。
もう目の前がトイレだ。
表示も見えている。
ここで慌ててはいけない!
便器を前にした状態でまだ着席していないのに離陸してしまうのはよくある話だ。
油断せず充分気をつけなくてはならない。
アテンションプリーズ。
もうひとふんばり。
いや、ふんばりはまずい。
いかにも出そうだ。
もうひとふんわり、これでいい。
最初のコメントを投稿しよう!