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一生懸命上ったばかりの階段を下りた先の踊り場で、俺は10人の高校生に囲まれた。
よくあのトイレにこれだけ入っていたものだ。
簡単には済みそうにない。
今度こそもう駄目かもしれない。
そう思っていたらいきなり腹を殴られた。
よりにもよって腹を。
膝をつきながら殴られた腹を押さえる。
反射的にむせそうになったが、それは肛門的に考えてNGだ。
ちくしょうなんでこんな目に。
どこからか悲鳴が聞こえた。
一瞬自分の悲鳴かと思ったが声が高い。
それに俺が悲鳴を上げたいのは殴られたからじゃなくうんこが出せないからだ。
囲まれていようと俺の中ではまだうんこ>不良だ。
騒ぎになるのを恐れたのか、不良たちは出川哲郎のモノマネをしながら散っていった。
携帯電話が鳴る。
床に伏せたまま、通話ボタンを押してそれを受ける。
「はい」
『はい、じゃねーよ!
先方怒ってんだろさっさと戻って来いよ!』
嫌な同僚ナンバーワンのズイダだ。
そういえば一緒にどこかへ謝りに行く予定だった。
それにしてもまるで俺がミスをしたような言い方だ。
こいつはこういう風に話の流れを微妙に操るのがうまい。
ここで俺がごちゃごちゃ言っても「同僚のフォローもできない奴」という扱いにされるだけだ。
『お前ほんと使えねえな! いーわもうお前来なくて。ていうかクソして死ね!』
「黙れ」
『あぁ?』
「そもそもあんたのミスだろうが、後輩にフォローばっかりさせてんじゃねえ。
担当違いのとこに呼びつけてんじゃねえよ。
わかってるよあんたの相棒はあんたより俺よりずっと優秀だもんな。
弱味見せたくないんだろうけど、あんたそういう小者臭さがぷんぷんすんだよ。
つまんねえ意地張るのはいいけど尻拭いを俺に―――
尻拭いってああ!
クソッ!
俺が拭いたいわ!」
いつの間にか通話が切れていた。
ため息をつく。
なにを言ってしまったんだろう。
実際最後は自分でもよくわからない。
我慢に我慢を重ねて、今まで無害で使い勝手のいい懸命な社員を演じていたのに。
会社に入って、自分があまり優秀でないことに気づいた時、こうやって生きていくしかないと覚悟したはずだったのに。
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