4.うんこしたい

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 また携帯電話が鳴った。 出る。   『あんちゃん、時間できた? 愚痴っていい? 聞いて聞いて!』    妹だ。 すでに泣き声だがそのくせテンションだけは高い。   「俺が泣きたいわアホゥ!」 『ひどいよあんちゃん!』 「ひどいのはお前の男の趣味だ!  何回も何回も離れてはくっついてそのたんびにもめやがって、あいつどんどん熱帯雨林みたいな頭になってるじゃないか!  どんなエコプロジェクトだ!」 『モタイナーイ』 「みっつのアールでも救いようがねえよ!」 『ひどいよあんちゃん!』    通話が切れた。    これまではずっといい兄だった。 妹のためならなんでもしてきたしなんでも我慢してきた。 しかしかわいさのあまり遠慮があったのも事実だ。 妹はのびのびと育ち過ぎたのかもしれない。 時には厳しい言葉をかける兄だったらよかったのかもしれない。    また電話が鳴る。 表示も見ずに出る。 母だった。   『お前メイちゃんになに言ったんだあ?』 「シツケだよ。 やっぱり甘やかすばっかりじゃ駄目だって」 『さっき泣きながら帰ってきたんだ。 優しくしてやんなきゃ駄目でねが』 「行方不明じゃなかったのかよ!  どんだけ近くにいたんだ。かーちゃんも遠慮してねえで事情くらい本人に聞けばいいだろ!」    今度は自分から通話を切った。 耳元の喧騒がなくなり、急に現実が帰ってくる。 ここはデパートの階段の踊り場。 ついさっき不良に囲まれて殴られた所だ。    這いつくばった体勢から立ち上がる。 殴られた痛みもあってどうしてもよろけてしまうが、今更誰に見られても恥ずかしいという感情はわかない。
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